早とちりや事実誤認といった「思考のエラー」は、誰にでも起こりうる。だからこそ、「情報をいかに正しく認識し、答えを出せるか」で差がつく。そのためには「遅く考える」ことが必要だ――そう説く一冊が、哲学者の植原亮氏による新刊『遅考術――じっくりトコトン考え抜くための「10のレッスン」』だ。24万部突破のベストセラー『独学大全』著者・読書猿氏も「結論に急き立てられる我々が『考える』ことを取り戻すために」と推薦している本書。何事につけても「速さ」がもてはやされる世の中で、いまこそ「遅い思考」が求められる理由とは? 植原氏の大ファンを公言する読書猿氏をゲストに迎え、「遅考」の核心を語り合ってもらった。今回のテーマは「忙しい中で『ゆっくり考える』方法」について。

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「遅く考えるタイミング」を見きわめよう

――単純に「ゆっくり考えている時間がないんだ」という人へは、どんなアドバイスをされますか?

植原亮:難しいですね(笑)。本当は、その「考える時間」をどうやって確保するかを考えなくてはならないのだと思います。そのためには、人間関係や仕事上の調整も必要になるでしょうし、そのための時間もまた必要になりますよね。

考える時間がないほど忙しいということは、考えることに対していかに無策であるかということの裏返しともいえそうです。

それでも、仕事の流れが完全に均質化することはないから、いつかチャンスは訪れるでしょう。

例えば、職場で何らかの危機的状況が生じたなら、それはこれまでのやり方を変えて、「考える時間」を創出するためのチャンスだと積極的に捉えてみるといいのではないでしょうか。

読書猿:それまでのやり方でうまくいかないような危機に遭遇したときって、実はすごくチャンスなんですよね。

人間のメカニズムとして、快調なときほど深く考えず、調子づいてどんどん物事を進めていけるということが挙げられます。それは、ポジティブな感情がわれわれを直観=システム1へ係留するからです。

逆に、ネガティブな感情は、システム1ではうまくいかないときに立ち上がってきて、熟慮=システム2への切り替えを促します。

ネガティブな感情というものはほとんどの動物が持っているらしいのですが、ならば何らかの意味があるはず。人間にとってはそのひとつが、システム2のスイッチが入ることにあるのではないかということが、近年の精神医学の研究でわかってきた。

「抑うつリアリズム」という現象があって、落ち込んでいる感情のときのほうが客観的に正確な判断ができるというのですが、それもシステム2への切り替えが起こるからだと考えられます。

いま書いている『文章大全』で、使いたいのに出典を見つけられていない小ネタがあるのですが、フランツ・カフカは自分の机にただひとこと「待て」と書いたメモをモットーとして張りつけていたといいます。

カフカにとっては、自分が「我に返る」ための外部足場のようなものであったのでしょう。ネガティブな感情も、これと同じような働きをするわけです。

立ち止まるための、きっかけをつくる

読書猿:一方で、ちょっとした罠もあって、システム2は認知的なリソースを大いに消耗します。本当に心配事がたくさんあって、そもそもリソースが少ないときにそのスイッチが入ってしまうと、もはや判断がおぼつかなくなってしまう。

ともあれ、こうした話を知っておけば、「いやだな」と思う感情がわいたときに、「いまこそ『遅考術』で学んだことを思い出すタイミングなのでは?」と、立ち止まることができるでしょう。

さらに、自分の認知のリソースも見きわめながら、「もう少したまるまで待とう」などと、システム2を自在にマネジメントできるようになれば面白いですよね。

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遅考術』には、情報を正しく認識し、答えを出すために必要な「ゆっくり考える」技術がつまっています。ぜひチェックしてみてください。

植原 亮(うえはら・りょう)

1978年埼玉県に生まれる。2008年東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。博士(学術、2011年)。現在、関西大学総合情報学部教授。専門は科学哲学だが、理論的な考察だけでなく、それを応用した教育実践や著述活動にも積極的に取り組んでいる。

主な著書に『思考力改善ドリル』(勁草書房、2020年)、『自然主義入門』(勁草書房、2017年)、『実在論と知識の自然化』(勁草書房、2013年)、『生命倫理と医療倫理 第3版』(共著、金芳堂、2014年)、『道徳の神経哲学』(共著、新曜社、2012年)、『脳神経科学リテラシー』(共著、勁草書房、2010年)、『脳神経倫理学の展望』(共著、勁草書房、2008年)など。訳書にT・クレイン『心の哲学』(勁草書房、2010年)、P・S・チャーチランド『脳がつくる倫理』(共訳、化学同人、2013年)などがある。

読書猿(どくしょざる)
ブログ「読書猿 Classic: between/beyond readers」主宰。「読書猿」を名乗っているが、幼い頃から読書が大の苦手で、本を読んでも集中が切れるまでに20分かからず、1冊を読み終えるのに5年くらいかかっていた。
自分自身の苦手克服と学びの共有を兼ねて、1997年からインターネットでの発信(メルマガ)を開始。2008年にブログ「読書猿Classic」を開設。ギリシア時代の古典から最新の論文、個人のTwitterの投稿まで、先人たちが残してきたありとあらゆる知を「独学者の道具箱」「語学の道具箱」「探しものの道具箱」などカテゴリごとにまとめ、独自の視点で紹介し、人気を博す。現在も昼間はいち組織人として働きながら、朝夕の通勤時間と土日を利用して独学に励んでいる。
『アイデア大全』『問題解決大全』(共にフォレスト出版)はロングセラーとなっており、主婦から学生、学者まで幅広い層から支持を得ている。本書は3冊目にして著者の真骨頂である「独学」をテーマにした主著。なお、「大全」のタイトルはトマス・アクィナスの『神学大全』(Summa Theologiae)のように、当該分野の知識全体を注釈し、総合的に組織した上で、初学者が学ぶことができる書物となることを願ってつけたもの。
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