『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。

※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

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[質問]

 今私は20代の社会人で、ここ1年以上高校数学からやり直しの勉強しています。それは「数学を諦めてしまうと、数学が関わる他の知的資源へのアクセスも諦めざるを得なくなるから」という動機によるものです。

 しかし、例えば微積分の知識や計算スキルが、現在の職場で直結して活きてくるかと言われれば、あまりそのようには感じていません(仕事は一般的な事務職です)。どちらかというと数学という言語の読み書きが出来るようになることで、論文を読んだり、様々な学問の専門知識を習得し、それらを仕事でも活かすことができるようになるための土台作りの意味があると感じています。

 しかし、今の私にとっては緊急性があって数学を学んでいる訳ではないので、「本当に今の自分は数学を学ぶことに時間を使ってしまって良いのだろうか」という疑問が出てきます。「人生を長い目で見た時に数学の知識は絶対に必要になる」と自分に言い聞かせている部分もあるのですが、いかんせん目標から逆算して仕事で必要になるスキルを習得するための勉強という実感が得られないので、数学の学習に対して本腰が入っていないように感じています。どうしたら数学の勉強に関する動機付けをさらに高めることが出来るでしょうか。

 ご教授いただけないでしょうか。

「言葉の役割とは何か」。それを知ると、数学のすごさがわかります

[読書猿の回答]

 私達生き物は、基本的に今ここで与えられる刺激に反応して生きています。

 しかしヒトは言葉をもつことで「今ここ」から離脱する能力を身につけました。

 この能力があればこそ、ヒトは未来を思い描いたり、目標を抱くことができ、現状へのリアクション以上/以外の行動を取ることができます。自分の行動を、大きな時間の流れや構想の中に位置づけ、意味づけることもできます。

 数あるフィクションや理論はこの能力の上に成り立っています。

 たとえば理論は「もし~~だったら…だ」という形で展開することができます。

 これによって将来、今とは異なる状況や課題が現れた場合にも役立たせることができるのです。

 この場合、言葉の役に立ち方は、「今ここ」から始める刺激のチェーンの延長線上にあるものではありません。

 むしろ「今ここ」(とその延長)とは異なる、もう一つの(必要なら複数の)レイヤーをつくること、それによって/を通じて「今ここ」から距離をとったり、あるいは異なる時点や人における「今ここ」同士を結びつけたりできることに依っているのだと思います。

 人によっては、言葉が表すものは、「現実」から遊離した絵空事のようなものだと言うかも知れません。

 しかし私はそうは思いません。私達の現実は、複数のレイヤーを織り込みながら、言表し語り話す事によっても、繰り返しつくられているのだと思います。

 さて数学を言葉の一種と捉えると、史上最も成功した人工言語であると考えることができます。

 異なる自然言語を話す人達に共通の基盤を提供するだけでなく、自然言語ではうまく扱えない対象や問題を取り扱うのに役立ってきました。

 数学という人工言語は、自然言語とは違うレイヤーをつくることができます。私達は、このレイヤーによって/を通じて、「今ここ」から距離をとったり、あるいは異なる時点や人における「今ここ」同士を結びつけたりできます。

 参考文献/具体例として『社会科学のためのモデル入門』ハーベスト社と、その後継をめざして書かれた『多モデル思考』森北出版を。





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