最近とある巨大テック企業と話をする機会があった。彼らが知りたがっていたのは、彼らが手がける人間中心設計は、エクスペリエンスの偏りを防ぐことができるかどうかというものだった。簡単にいうとその答えは、おそらくノーである。

エクスペリエンスの偏りといっても、何も私たち自身の認知的な偏りのことではない。デジタルインターフォースのレイヤー(デザイン、コンテンツなど)における偏りのことを指しているのだ。人々が接しているほとんどのアプリやサイトは、制作したチームの認識や能力に基づいて設計されているか、ごく数人の価値の高いユーザーのために設計されている。もしユーザーがデザインにおける慣習を知らなかったり、デジタルへの理解が足りなかったり、技術的なアクセスがなかったりすると、そのエクスペリエンスは彼らにとって不利なものになると言えるだろう。

解決策としては、多様なユーザーのニーズに合わせ、デザインやエクスペリエンスを複数バージョン作るという考え方にシフトするというのがある。

前述のテック企業の話に戻ると、共感できるデザインへの投資はどんな企業にとっても不可欠だが、デザイン機能を立ち上げ運営してきた者として、ここで知られざる事実をいくつか打ち明けておく必要があるだろう。

まず第一に、UXチームやデザインチームは、戦略やビジネス部門から非常に限定されたターゲットユーザーを指示されることが多く、エクスペリエンスの偏りはすでにそこから始まっている。事業があるユーザーを優先しなければ、デザインチームはそのユーザーのためにエクスペリエンスを作る許可も予算も得られない。つまり、企業が人間中心設計を追求したり、デザイン思考を採用したりしていたとしても、多くの場合は商業的な利益に基づいてユーザープロファイルを繰り返し作成しているだけで、文化、人種、年齢、収入レベル、能力、言語などの多様性の定義からは程遠いものとなっている。

知られざる事実の2つ目に、人間中心設計ではUX、サービス、インターフェースのすべてを人間が設計することを前提としていることが挙げられる。エクスペリエンスの偏りを解決するために、ユーザーのあらゆるニーズに基づいてカスタマイズされたバリエーションを作成する必要がある場合、特にデザインチーム内の多様性が豊かでない場合には手作りのUIモデルというだけでは十分でない。ユーザーのニーズに基づいた多様なエクスペリエンスを優先させるには、デザインプロセスを根本的に変えるか、デジタルエクスペリエンスの構築に機械学習や自動化を活用するかのどちらかが必要であり、これらはどちらもエクスペリエンスの公平性へのシフトのためにはとても重要なことである。

エクスペリエンスの偏りを診断し、対処する方法

エクスペリエンスの偏りに対処するには、どこに問題があるかを診断する方法を理解するところから始まる。下記の質問は、デジタルエクスペリエンスのどこに問題が存在するかを理解するためにはとても有用な質問だ。

コンテンツと言語:このコンテンツは個人にとってわかりやすいものか?

アプリケーションには、技術面で特別な理解を必要としたり、企業や業界に特化した専門用語を使ったり、専門知識を前提としたりするものが多い。

金融機関や保険会社のウェブサイトでは、閲覧者が用語や業界、名称を理解していることが前提となっている。代理店や銀行員が事細かに教えてくれる時代でないのなら、デジタルエクスペリエンスがそれに代わって説明してくれるべきではないだろうか。

UIの複雑さ:自分の能力に基づいたインターフェースになっていないか?

障がいがあっても支援技術を使って操作ができるだろうか。またはUIの使用方法を学ぶ必要があるか。1ユーザーがインターフェイスを操作するために必要とする力量は、その人の能力や状況に応じて大きく異なる場合がある。

例えば高齢者向けのデザインでは、視覚的効果が控えめで文字の多いものが優先される傾向にあり、逆に若者は色分けや現在のデザイン規則を好む傾向にある。新型コロナウイルス(COVID-19)のワクチン用ウェブサイトでは、操作方法や予約方法を理解するのに皆苦労したのではないだろうか。また、各銀行のウェブサイトは同じような情報でも操作方法が大きく異なっている。かつて、スタートアップ企業のUIは非常にシンプルなものだったが、機能が追加されるにつれベテランユーザーにとってさえも複雑になってきている。Instagramの過去5年間での変化がその良い例である。

エコシステムの複雑さ:複数のエクスペリエンスをシームレスに操作する責任をユーザーに負わせていないか?

私たちのデジタルライフは単一のサイトやアプリを中心としているわけではなく、オンラインで行うことすべてにおいてあらゆるツールを使用している。ほとんどのデジタルビジネスやプロダクトチームは、ユーザーを自分たちの庭に閉じ込めておきたいと考えており、ユーザーが達成しようとしていることに基づいて、ユーザーが必要とするかもしれない他のツールを考慮してくれることなどほとんどない。

病気になれば、保険、病院、医師、銀行との連携が必要になるだろう。大学の新入生の場合は学校のさまざまなシステムに加えて、ベンダー、住宅、銀行、その他の関連組織と連携しなければならない。このように、ユーザーがエコシステムの中でさまざまなエクスペリエンスをつなぎ合わせる際に困難に直面しても、結局のところユーザーの自己責任となってしまうのである。

受け継がれるバイアス:コンテンツを生成するシステム、別の目的のために作られたデザインパターン、エクスペリエンスをパーソナライズするための機械学習を使用している場合。

このような場合、これらのアプローチがユーザーにとって正しいエクスペリエンスを生み出しているかどうかをどのようにして確認しているだろうか?コンテンツ、UI、コードを他のシステムから活用する場合、それらのツールに組み込まれたバイアスを引き継いでしまうことになる。例えば、現在利用可能なAIコンテンツやコピー生成ツールはいくつも存在するが、自身のウェブサイトのためにこれらのシステムからコピーを生成した場合、そのバイアスをエクスペリエンスに取り込んでしまうことになる。

よりインクルーシブで公平なエクスペリエンスエコシステムの構築を始めるには、新しいデザインと組織的なプロセスが必要だ。よりカスタマイズされたデジタルエクスペリエンスの生成を支援するAIツールは、今後数年間でフロントエンドデザインやコンテンツへの新しいアプローチにおいて大きな役割を果たしてくれることだろう。しかし、どんな組織でも今すぐ実行できる5つのステップがある。

デジタルエクイティをDEIアジェンダの一部とするということ:多くの組織がダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンの目標を掲げているものの、それらが顧客向けのデジタル製品に反映されることはほとんどない。筆者は大企業でデザインチームを率いたり、デジタルスタートアップで働いたりした経験があるが、問題はどこでも同じで、組織全体の多様なユーザーに対して明確な説明責任を果たしていないということなのである。

大企業でも中小企業でも、各部門が影響力の強さやどちらが顧客に近いかを競い合っている。デジタルエクスペリエンスや製品の出発点は、ビジネスレベルで多様なユーザーを定義し、優先順位をつけるところから始まるが、上級職レベルでデジタルとエクスペリエンスの公平性の定義を作成することが義務付けられているのなら、各部門はそれらの目標にどのように貢献できるかを定義すれば良い。

デザインチームやプロダクトチームは、経営陣や資金面でのサポートがなければインパクトを与えることができないため、経営幹部レベルはこの優先順位を確保するという責任を負う必要がある。

デザインチームと開発チームの多様性を優先すること:これについてはこれまでにも多くの記事が書かれてきたが、多様な視点を持たないチームというのは、自分たちの恵まれた経歴や能力だけに基づいたエクスペリエンスを生み出してしまうということを強調しておく必要がある。

さらに、多様なユーザーに向けたデザイン製作を経験したことのある人材を採用することが不可欠であるということも付け加えておきたい。デザイナーや開発者のグループを改善するため、採用プロセスをどのように変えているのか。多様な人材を確保するためにどういった企業と提携しているか。DEI目標は採用用紙上のチェックボックスに過ぎず、すでに思い描いていたデザイナーを採用していないだろうか。使用しているエージェントは明確かつ積極的なダイバーシティプログラムを持っているか。そして、彼らはインクルーシブデザインにどの程度精通しているか。

Googleの取り組みには模範的なものがいくつかある。人材パイプラインにおける代表性を向上させるための取り組みとして、機械学習コースへの資金提供を白人の多い教育機関からより包括的な学校に移し、TensorFlowコースへのアクセスを無料にし、またBIPOC(黒人、先住民、有色人種)にあたる開発者にはGoogle I/Oなどのイベントへの無料チケットを送付している。

何を、誰にテストするかを再定義する:ユーザーテストが実施される場合、収益性の高いユーザー層や特に重要なユーザー層に限定してテストが実施されることがあまりにも多い。しかし、お年寄りやデスクトップコンピュータをまったく使用しない若いユーザーに対してそのサイトはどのように機能するだろうか?

エクスペリエンスにおける公平性と平等性の重要な側面として、複数のエクスペリエンスを開発し、テストすることが挙げられる。ほとんどの場合、デザインチームは1種類のデザインをテストして、ユーザーからのフィードバックに基づいて微調整を行っている(テストを行ってさえいない場合もかなり多い)。手間はかかるものの、高齢者やモバイルしか持っていないユーザー、異なる文化的背景を持つユーザーなどのニーズを考慮したデザインバリエーションを作ることで、デザインをデジタルエクイティの目標に結びつけることができるのである。

「1つのデザインをすべてのユーザーに」届けるのではなく「複数バージョンのエクスペリエンスを立ち上げる」ということにデザイン目標を変更する:通常、最も重要なユーザーのニーズに基づいて、あらゆるエクスペリエンスを単一バージョンに絞り込むというのがデジタルデザインや製品開発の常識である。アプリやサイトのバージョンを1つではなく、多様なユーザーに合わせて複数バージョンを用意するというのは、多くのデザイン組織のリソース確保や製作の方法に反するものである。

しかし、エクスペリエンスの公平性をもたらすためにはこの転換が不可欠だ。簡単な自問をしてみると良い。そのサイト / 製品 / アプリには、高齢者向けのシンプルで大きな文字のバリエーションが用意されているだろうか?低所得世帯向けのデザインに関しては、デスクトップに切り替えて作業する人と同様に、モバイルのみ使用のユーザーでも難なく作業を完了できるだろうか?

これは、単にレスポンシブバージョンのウェブサイトを用意したり、バリエーションをテストして最適なデザインを見つけたりすることに留まらない。デザインチームは、優先されるべき多様なユーザーや十分なサービスを受けていないユーザーに直接結びつくような、複数の視点を持ったエクスペリエンスを提供するという目標を持つべきなのである。

自動化を導入し、ユーザーグループごとにコンテンツやコピーのバリエーションを作成する:デザインのバリエーションを揃えたり、幅広いユーザーでテストしたりしていたとしても、コンテンツやUIのコピーは後回しにされているということがよくある。特に組織の規模が大きくなるにつれてコンテンツが専門用語で溢れ、洗練されすぎて意味をなさなくなることがある。

既存の言葉(例えばマーケティングコピー)からコピーを取ってアプリに載せた場合、そのツールが何のためにあるのか、どうやって使うのかなどの、人々の理解を制限してしまっていないだろうか。エクスペリエンスの偏りに対するソリューションが、個々のニーズに基づいたフロントエンドデザインのバリエーションを用意することであるならば、それを劇的に加速させるスマートな方法の1つは、どこに自動化を適用すべきかを理解することである。

私たちは今、UIやコンテンツの制作方法を根本的に変えてしまうであろう新たなAIツールが、静かな爆発のように広がり続けている時代にいる。ここ1年でオンラインに登場したコピー駆動型のAIツールの量を見てみると良い。こういったツールはコンテンツ制作者が広告やブログ記事をより速く書けるようにすることを主な目的としているが、大規模なブランド内でこのようなツールをカスタム展開し、ユーザーのデータを取得してUIのコピーやコンテンツをその場で動的に生成するということも容易に想像ができる。例えば、年配のユーザーには専門用語を使わないテキストによるサービスや商品の説明が展開され、Z世代のユーザーには画像を多用したコピーが表示されるという具合だ。

ノーコードのプラットフォームでも同様のことが可能である。WebFlowからThunkableまで、すべてが動的に生成されるUIの可能性を持ち備えている。Canvaのデザインは物足りなく感じるかもしれないが、すでに何千もの企業がデザイナーを雇う代わりに、ビジュアルコンテンツ作成のため、Canvaを利用している。

多くの企業がAdobe Experience Cloudを利用しているが、その中に埋もれているエクスペリエンスの自動化機能を蔑ろにしていないだろうか。デザインの役割は最終的に、カスタムメイドのエクスペリエンスを手作りすることから、動的に生成されるUIのキュレーションへと変化していくことだろう。過去20年間にアニメーション映画が遂げた進化が良い例である。

機械学習とAIがもたらすデザインバリエーションの未来

上記のステップは、組織がエクスペリエンスの偏りに対処し、現在のテクノロジーを使って変えていくための方法を示したものである。しかし、エクスペリエンスの偏りに対処する未来が、デザインやコンテンツのバリエーション作成に根ざしているとすれば、AIツールがかなり重要な役割を果たすようになる。すでにJarvis.aiやCopy.aiなどのAI駆動型コンテンツツールの波が押し寄せており、またFigmaやAdobe XDなどのプラットフォームに組み込まれた自動化ツールも存在する。

フロントエンドデザインやコンテンツを動的に生成できるAIや機械学習の技術は、多くの点でまだ初期段階にあるものの、今後の展開を物語る興味深い事例があるため以下に紹介したい。

1つ目は、Googleが2021年初めに発表したAndroid端末向けのデザインシステムのMaterial Youである。このシステムではユーザーが高度なカスタマイズを施すことができ、また高度なアクセシビリティも内蔵している。ユーザーは色やフォント、レイアウトなどを自由にカスタマイズでき、自在にコントロールすることができるが、機械学習の機能により、場所や時間帯などユーザーの変数に応じてデザインが変化するようになっている。

パーソナライゼーションは、ユーザーが自分でカスタマイズできるようにするためのものと説明されているが、Material Youの詳細を見てみるとデザインレイヤーにおける自動化と多くの可能性が交差していることが分かる。

人々がAIを体験する際のデザイン原則やインタラクションについて、これまで各企業が取り組んできたことも忘れてはいけない。例えばMicrosoftのHuman-AI eXperienceプログラムでは、AI主導のエクスペリエンスを構築する際に使用できる、インタラクションの原則とデザインパターンのコアセットを、人間とAI間のインタラクションの失敗を予測して解決策を設計するためのプレイブックとともに提供している。

これらの例は、インタラクションやデザインがAIによって生成されることを前提とした未来の指標となるものであり、これが現実の世界でどのように機能していくかについてはまだ実例がほとんどない。重要なのは、偏りを減らすためにはフロントエンドデザインのバリエーションとパーソナライゼーションを根本的に増やすというところまで、事を進化させる必要があるということであり、またこれはAIとデザインが交差するところで生まれつつあるトレンドを物語っている。

こうしたテクノロジーと新たなデザイン手法が融合すれば、企業にとってはユーザーのためのデザインのあり方を根本的に変えるチャンスになるだろう。エクスペリエンスの偏りという課題に今目を向けなければ、フロントエンド自動化の新時代が到来したときには、その問題に対処するチャンスがなくなってしまうだろう。

編集部注:本稿の執筆者Howard Pyle(ハワード・パイル)氏は、デジタルエクスペリエンスに公平性を持たせることを目的とした非営利団体ExperienceFutures.orgの創設者であり、これまでにMetLifeやIBMでブランドサイドのデザインイニシアチブを主導してきた。

画像クレジット:naqiewei / Getty Images

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(文:Howard Pyle、翻訳:Dragonfly)





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