『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』を推してくれたキーパーソンへのインタビューで、その裏側に迫る。

今回インタビューしたのは、発達障害当事者としてTwitterで子育てなどの情報発信を続けるなちゅ。さん。『独学大全』は何度も学ぶことに挫折してきた発達障害の人たちにおすすめしたい、最後の一冊」と語る理由とは? 反響のあった第1回第2回に続き、今回は子育てで最も大事にしていることについて、話を聞いた。(取材・構成/書籍オンライン編集部)

――なちゅ。さんが、二人の娘さんの教育について一番大切にしていることは何ですか?

なちゅ。:学校の先生にお願いしているのは「勉強が嫌いにならないようにしてほしい」という1点だけ。自分も、それを肝に銘じています。私自身が親から何度も怒られて、勉強が嫌いになった人なので……。

 以前の記事でも書きましたが、母親も、小さい頃には「優秀な子」だった私の成績がなぜ下がるのか、理解できなかったんだと思います。だから、抽象的にプレッシャーをかけるしかなかった。漫画やゲームは全部排除されて、「ちゃんとしなさい!」と怒られて……。でも、その”ちゃんと”のしかたがわからない。

 振り返ると恥ずかしい笑い話でしかないんですが、勉強ができない自分が嫌で、成績がよくなるおまじないとか占いとかを思春期の頃になっても真剣にやっていましたね。いま思えば、あの頃の私も自分に合った勉強のやり方を求めていたんだと思います。

 でもそこにたどりつけず、頓珍漢な方法を試してた。当時はつらかったですね。

なちゅ。

1980年生まれのワーキングマザー。発達障害(ADHD:注意欠如・多動症)当事者。中学校2年生(13歳)と小学校4年生(9歳)の娘、そして夫も発達障害の特性を強く持つ。長女の発達障害診断をきっかけに、独学を開始。現在も、自らの発達障害や子育てについてTwitterを中心に情報発信を行う。

Twitter:https://twitter.com/itacchiku

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――子どもが勉強を嫌いにならないために、親は、何をすればいいでしょうか?

なちゅ。:大事なことはたったひとつ。子ども本人のやり方を否定しないことです。

――否定しない……深いですね。でも、全部「いいよ、いいよ」と受け入れていると、逆に全く勉強しなくなる気がして……。

なちゅ。:おっしゃる通りです。私が具体的に気を付けているポイントは3つですね。

 ①「みんな一緒」にこだわらない

 ②失敗しそうでも「アドバイス」はしない

 ③「わからない」を認める

①「みんな一緒」にこだわらない

なちゅ。:たとえば、前回の記事で紹介した「しんどいの棚卸し」。子ども本人と対話しながらメタ認知を高めて自己分析のアシストをする方法です。でも、我が家ではこの作業は次女に対してはしょっちゅうやりますが、長女に対してはほとんどやりません。

 なぜなら、長女の場合は誰に言われなくても自主的にコツコツ同じ作業を繰り返すことに、苦痛を感じないからですね。記憶力も高い子なので、いまの学校の積み上げ学習というものがとてもあっていて、先生の評価も高く成績も安定しています。そこだけをみていたら、知的障害グレーゾーンの診断がついていることを誰も信じないでしょうね。

 ただ、コミュニケーションはやはり苦手で、複雑な会話は難しいです。対話やメタ認知で物事を考えることは、いまの長女にとってまったく楽しいものではないようです。それどころか、私からみれば、長女はそれらの作業も思考も、長い時間をかけても身に着けることは難しいかもしれないとさえ感じます。

 でも、私や次女とは違うやり方で、学びを楽しんでいる長女もまた素晴らしい。同じである必要はありません。

②失敗しそうでも「アドバイス」はしない

なちゅ。:もうひとつのポイントは、「見守る」こと。本人たちが試行錯誤しているときは、なるべく黙っているようにしています。

――ちょっと非効率な勉強のやり方をしているな、と思っていても、黙っていますか?

なちゅ。:はい。たとえ親から見てムダと思っても、本人にとって気づきが得られるならそれは経験であり、「ムダになった」という知識になりますから。

 とはいえ、あまりにも脱線が過ぎるときは「それもいいけど、こういう方法もあるよ~」と否定はしない形で選択肢を増やして、その試行錯誤にお母さんもちょっと参加させてよ!とアプローチはしちゃいますが……(笑)。

 今は私が口頭でサポートしていますが、そのうち一緒に『独学大全』をめくる日が来そうな気もしています。

③「わからない」を認める

――なちゅ。さんのように前向きにとらえるのが、一番大変そうですよね。

なちゅ。:そうですね。それはおっしゃる通りで、発達障害の子を持つ親御さんにとって難しいのは、「自分の子は〇〇ができない」「〇〇がわからない」と認めることだと思うんです。

読書猿さんも、

「人にとって「わからない」状態は耐え難いことだが、何かを学ぶことは「わからない」ことと向かい合い、付き合っていくことである。」(『独学大全』技法53「わからないルートマップ」解説より)

と書いています。

 大人は無意識に「わからない」ことを恥だと思っているし、それを人に言ってはいけないと思っている。弱みを見せることは、この社会をサバイブするうえでデメリットだと思い込んでいるんですよね。でも実は、「わからない自分」を隠さない方が生きやすいんです。

 私自身も、ぼんやり「私は勉強が苦手だ」と思っているときより、「自分には何ができないのか、ここまでならできるのであとは手伝って!」と、はっきり言えるようになった後の方が明らかに生きやすくなりました。

 同じように、子ども自身が抱える問題を説明するときも、できないことほどはっきりと主張したほうがいい。そのうえでどうしてほしいのか、どうしたらできるのかを、子ども本人や先生や支援者とともに考えていく。出来ないことを認めるから、その先に進める。出来ないに向き合ってきた数だけ、生きやすさは加速すると感じています。

スピードが違うだけ。順番が違うだけ。リズムが違うだけ

――なちゅ。さんと同じように、発達障害の子どもたちを育てている親御さんへのメッセージはありますか。

なちゅ。:自分自身へのメッセージでもありますが、とにかく焦らないようにしています。誰にでも、自分のペース、自分のやり方、自分の解決方法があると思うんです。

 できる、できないじゃなくて、スピードが違うだけ。順番が違うだけ。リズムが違うだけ。

 他人と違うペースで生きる我が子を見て、日々の生活の中で困難を感じたり、将来に不安を感じる日もあるでしょう。決して他人と同じペースでは生きてこられなかった当事者の私でさえ、我が子を思ってその不安に押しつぶされそうな日もあります。

 でも、学校になかなか通えなくても、特別に秀でた何かがなくても、新しい知識や経験を得て、そこから導かれるひらめきは一生続くわけで、独学はすべての人間が一生繰り返す行為です。

 そう考えると、今焦って勉強嫌いになるよりは、その子のペースでいいのではないでしょうか。むしろ、他人と同じではないことを知っているからこそ、開く扉があるはずです。

「わからない」も「できない」も全然ダメなことじゃない。苦しみも葛藤も喜びもまるっと含めて、親子で学びを楽しんで! そうこうしているうちに、一緒に学び歩み支え合って共に生きられる多くの人たちにも、きっと出会えますよ。

 私もTwitterでの出会いをきっかけに独学の面白さを知り、独学を通じて自分自身を知ることができたんです。今ではTwitterでもリアルでも、たくさんの仲間を見つけることができました。





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