『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。

※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

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[質問]

 高校生です。研究テーマの決め方についてご質問させていただきたいことがあります。

 現在、この春から1年間課題研究に取り組む機会をいただいており、そこで私はある植物における生化学系の研究をしたいと考えています。

 最初に決めていた研究テーマはあったのですが、それ自体抽象的だった上、先行研究を調べていくうちに実は実施しようとしていたことが割と行われていたことが分かり、テーマを修正した方がよいと判断しました。

 先行研究を調べていく中である程度研究したい分野(現象)やざっくりした対象は見えてきたのですが、具体的に何についてどのようなことを調べたらよいのかを決めかねてしまっています。

 その分野についてまだ解明されていないことはあるにはあるのですが、本職の研究者の方たちが解明できていないことを、高校内容の知識もおぼつかない自分があと1年もない中で解明できるとは到底思えません。しかし研究である以上新規性のあることをしなければならず、自分の力量と求められるクオリティのギャップに苦しんでいます。

 研究において実行可能性と新規性を両立させるにはどうすればよいのでしょうか。

「自分にできること」を探し、それを「自分がしたいこと」にできるだけ近づけてみましょう

[読書猿の回答]

 実行可能性と新規性の両立を「ジレンマ」として捉えると難問となります。問題の捉え方を変えるべき案件です。

 問題解決のTipsですが、ジレンマに陥ると感じる場合、直面している「両立し難い2つ」以外の何かを見逃していないか検討すると道が開けることがあります。

 学術研究の場合、要求されるものには、新規性と実行可能性の他にもう一つ、学術的な重要さ(面白さ)があります。

 2つでも難しいのに3つとなると余計に難しくなる気がしますが、すべてを満たす完璧な研究は無理と分かれば、何かを諦めるという腹が決まります。

 さて「銅鉄実験」という言葉をご存じでしょうか?

 これは「銅の実験でこうだったから、鉄では(同じ実験をやると)どうだろうか」という実験のやり方のことで、要するに〈つまらない研究〉をさす表現(悪口)です。

 さて「銅鉄実験」は、学術的な重要さ(面白さ)は欠けているものの、実は研究に求められる他の2側面、実行可能性と新規性を両立しています。

「銅鉄実験」を実行できる者は、

・「鉄については同種の研究は行われていない」ことを確認できる(研究の新規性を担保する)文献調査力

・既存研究である「銅の実験」の研究手法を理解し再現できるだけの(実行可能性を担保する)実験能力

 を兼ね備えてた、研究者としてのミニマム・スキルセットを有すると言えるでしょう。

 さて「銅鉄実験」は本当につまらない、やる価値のない研究ばかりなのでしょうか。

 これはものによる、というべきです。実際「○○の手法を××に適用してみた」という研究は少なからずあり、時にこれで重要なブレイクスルーが生まれることもあります。

 あなたにおすすめしたい戦略は、できるだけよい「銅鉄研究」をデザインすることです。これにより実行可能性と新規性の両立という偽の問題を回避して、「自分にできること」を探し、それを「自分がしたいこと」にできるだけ近づける、という取るべき努力に道筋をつけることができます。

 具体的には、2つのアプローチがあります。

1.既に見つけた先行研究(「○○の手法を△△に適用してみた」)を元にして、△△のところに、まだ行われていない(既存研究のない)「××」を当てはめて研究デザインをつくる(標準的な銅鉄アプローチ)。

2.「自分のしたいこと」(「○○の手法を××に適用してみた」の「××」に当てはめるもの)に使えそうで自分にもできそうな手法を使った先行研究(「○○の手法を△△に適用してみた」)を探す(遡行的な銅鉄アプローチ)。

 最後に参考文献を。

 テーマ設定のみならず、実行可能な研究デザイン全般について、これ以上になく分かりやすい良書がありますので、一読をおすすめします。

 石原尚『卒論・修論研究の攻略本』(森北出版)





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