サッカーワールドカップ全64試合を無料放送中のABEMAが、日本vsスペイン戦などが生中継された12月2日の視聴者数が1,700万人を突破し、開局史上最高数値を記録したことを発表しました。ABEMAの視聴者数は、日本vsドイツ戦で初めて1,000万人を突破し、日本vsコスタリカ戦で1,400万人を更新し、今回は更に記録を突破したことになります。

今回のワールドカップの試合中継でまさに一般化したのが、インターネットテレビ局「ABEMA」です。筆者の周囲でも一気に話題となりました。移動中もスマホで見ることができ、試合後も見ることが可能で、全64試合全てが視聴でき、テレビよりも機能が高いとインターネットテレビの良さが改めて浮き彫りになっています。

これまでワールドカップの中継は、旧来型メディアである地上波テレビの独壇場でしたが、今回はインターネットテレビであるABEMAの独壇場になっています。

今回の記事では、ワールドカップ中継が、なぜABEMAの独壇場になったのか、その背景について簡単に確認していきたいと思います。

 

放映権料という問題

まず、なぜ今回はワールドカップの中継がABEMAの独壇場になったのでしょう。地上波テレビ局は、業績がそこまで厳しいのでしょうか。

まず押さえておくべきは、日本とカタールは時差が6時間あり、今回我々が寝不足になっているように試合は夜中に開催されるということです。

ワールドカップの放映権料は時代を経るごとに高騰していますが、日本においては、深夜の中継では低い視聴率しか見込めません。ということは、低いコマーシャル広告収入しか地上波テレビ局は期待できませんでした。

そもそも、前回の記事(以下リンクあり)にもあるように、地上波テレビ局は広告収入に変調を来たしています。

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FIFAからのワールドカップ放映権料にかかる提示額は推定350億円と報道されています。日本の地上波テレビ局にはとても負担出来る金額ではなかったということでしょう。

この350億円のうち、ABEMAの放映権料は推定200億円と報道されています。残りの150億円については、NHKが90億円、テレビ朝日とフジテレビで60億円を負担しているのではないかと推測されています。

規模が大きいはずの地上波テレビ局よりも大きな金額を払えるABEMAとは何者なのでしょうか。

 

ABEMAが巨額の放映権料負担が出来たワケ

ご存じの方は多いと思いますが、ABEMAの正式な会社名は株式会社AbemaTVであり、インターネット広告大手のサイバーエージェントの子会社です。出資割合は、サイバーエージェント55.2%、テレビ朝日36.8%、電通5%、博報堂DYメディアパートナーズ3%となっています。

この親会社であるサイバーエージェントに余力があるからこそABEMAは今回サッカーワールドカップ全64試合を無料中継できたのです。

以下は、サイバーエージェントの2022年9月期決算についてです。

(出所 サイバーエージェント「2022年9月期 決算説明会資料」)

この説明にあるようにサイバーエージェントは既に連結売上高が7,000億円を超えています。営業利益は700億円弱あり、推定されている放映権料200億円が仮に完全な持ち出しとなっても黒字は維持できる収益力です。

地上波テレビ局の視聴率トップの日本テレビホールディングスの2023年3月期業績予想は、売上高が4,150億円、営業利益が430億円です。地上波テレビ局最大手のNHKの2021年度連結業績は、売上高に相当する経常事業収入が7,508億円、営業利益に相当する経常事業収支差金が450億円となっています。サイバーエージェント全体では既に地上波テレビ各局に匹敵し、民放を上回ってきていることが良く分かるでしょう。

このサイバーエージェントは2016年度から継続してABEMAを育成してきました。

(出所 サイバーエージェント「2022年9月期 決算説明会資料」)

このABEMAへの投資を支えているのは堅調なインターネット広告事業と急激に業績が拡大したゲーム事業です。

(出所 サイバーエージェント「2022年9月期 決算説明会資料」)

特にゲーム事業では、2021年にリリースされた「ウマ娘 プリティーダービー」というゲームが非常な人気を博しているようです。ゲームはその人気・収益が簡単には長く続きませんが、一つ当たると大きな収益をもたらすビジネスです。

この「ウマ娘」が当たったことによって、我々日本人はワールドカップの日本戦を無料で見ることが出来ているのかもしれません(冗談抜きです)。

サイバーエージェントのABEMAを中心とするメディア事業の業績は以下の通りとなっています。

(出所 サイバーエージェント「2022年9月期 決算説明会資料」)

サイバーエージェントは、まさに毎年150億円以上の赤字を出しながらメディア事業の売上高を拡大させてきました。サイバーエージェントでなければ我慢して育成できなかったでしょう。

このメディア事業の成長・投資の総仕上げがワールドカップということなのだと筆者は想定しています。

 

ABEMAが得たもの

ABEMAは今回のワールドカップ中継で大きな果実を得ました。

一つは、1,700万人程度が同時視聴しても遅延等の問題が発生しなかったという実績です。日本人がここまで同時に一つのチャンネルを見ることはオリンピックぐらいでしょうから、ABEMAは止まらないメディアであることを完全に示すことに成功しました。これで、広告主から見た場合にはビックイベントでもABEMAには放送する力があると判断出来るでしょう。

またもう一つは、ABEMAが既存テレビ局が用意しているよりも見やすいアプリであるという実感を視聴者に持たせることに成功したことです。

(出所 サイバーエージェント「2022年9月期 決算説明会資料」)

この二つの要因を考えると、ABEMAは完全に地上波テレビ局と並ぶメディアとして広告主からも一般視聴者からも認知されたのではないでしょうか。

サイバーエージェントは、中長期の戦略を以下の通り説明しています。

(出所 サイバーエージェント「2022年9月期 決算説明会資料」)

まさに、広告とゲームで稼ぎ、メディアを育てる戦略の通り、今回はワールドカップ中継でABEMAが名を上げたのです。

戦略と行動が言行一致のサイバーエージェント、そしてABEMAの今後については、メディアの将来像・収益といった観点で要注目です。



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